コラム「これからの時代の修学旅行②」

支援員 吉本方美

修学旅行はすべての生徒にとって楽しい行事とは限らず、今回は、特別な配慮が必要だったA君のエピソードを紹介します。

🔹交通機関の利用🔹
A君は人との長時間の空間共有が苦手で、徒歩や自転車での移動を好んでいました。そのため、団体移動のバスや不特定多数の方が乗るJR、初体験となる飛行機などの利用に強い不安を感じていました。移動のことを考えるだけで疲弊し、旅行の楽しさを考える余裕すらありませんでした。

 自転車に乗る男の子のイラスト

🔹服装の悩み🔹
当時私が勤めていた学校では、修学旅行は私服での参加が求められましたが、A君はあるビジュアル系バンドに憧れていて、そのスタイルの服しか持っていませんでした。修学旅行のTPOに合った服装が自分にはないことが不安で、誰にも相談できず悩んでいました。

🔹宿泊への抵抗🔹
A君には独自の生活ルールがあり、それを守ることで安心して暮らしていました。学校生活ではそのルールを抑えて集団行動に馴染もうとしていましたが、修学旅行では3泊4日、家族以外の人と24時間過ごすことになり、自分のルールが通じない環境に強い不安を覚えていました。

🔹A君が選んだ道🔹
悩んだ末、A君は参加承諾書を提出し、修学旅行への参加を決意します。背中を押してくれたのはクラスメイトたちでした。「苦手はみんなでカバーする」と声をかけ、服装の相談に乗り、乗り物の座席配置や一人になれる時間の確保まで、A君が安心して参加できる環境づくりを助けてくれました。当日、緊張と期待が入り混じった表情で集合場所に現れたA君を仲間たちは大歓声で迎えました。

この経験を通し、生徒同士が互いの苦手や不安を理解し支え合うことで、「やってみよう」「乗り越えよう」という気持ちを引き出すきっかけになることを知りました。A君は現在、30歳ほどになり、日々の移動には自家用車を使い、自分のペースで生活できる環境を選んでいます。学生時代に、自分の感じ方や不安を受け止めてもらえたことで、自分らしく生きる選択ができるようになりました。このように、一人ひとりの気持ちに寄り添うことは、子どもたちが将来、自分に合った生き方を見つけていく力につながります。

修学旅行は、ただのイベントではなく、子どもたちの「生きる力」を育む貴重な学びの機会なのです。

車に乗る人のイラスト